好きじゃ、ない20090124



窓を叩く雨は、何重もの音を響かせながら、
ガラスを、滝のようにつたって流れる。

水の流れに滲んで外はよく見えない。
雨音に邪魔されて、ファリスが今、俺の下で、
小さく呟いた声は聞こえなかった。


「何?」

長い髪を、そっと梳いた。漂った香りに、吸い寄せられるように、
その髪に口付けをおとした。

「だから」
振り払うようにファリスが振り向いて、頬を手で押し返された。
その乱暴な感覚さえ、俺の気持ちを、ぐいぐい押し上げる。

どうかしてる。

完全に俺の感情は、自分の手元から離れきって、
もう、コントロール不可能で、
睨んだファリスを見つめながら、頬にあたった手に自分の手を重ねる。

「そーいう事、するなっつってんだ」
「そういう事?」

引きちぎるように手を引いて、更に睨む目を強められる。

「やるならさっさとやれ、無駄に触んな」
「なんで」
「おれが嫌だっつったらぃ・・」

ファリスの言葉によって、胸に空いた風穴を補修するように、
唇を重ねて続きの言葉を吸い込んだ。

外の強い雨に対抗するように口付けを激しくしたら、
添えられた手が、強すぎるくらいに腕を掴んで、痛い。

離れた顔には怒りの色。不穏に歪んだ顔に、俺は再度の問いかけ。

「なんで俺とやろうと思った?」

つり上がった目がふと緩む、声を失ったように少し黙って、けれど、
ファリスの気持ちは、ふとかすかに浮かんだ作ったような笑いに隠れてしまった。

「好奇心だよ」

お前の声はいつも強くて、単刀直入。なのに、
時々歪んでどこか弱い。

小さく眉を寄せてから、それを打ち消すように笑顔を作る。
陰った気持ちを悟られたら、何かが壊れる、そんな気がした。

これはきっと、余計な感情。

衣服の隙間から割り込ませた手に、柔らかい感触。
長い髪がまとわりついた首筋は、温かくて良い匂いがした。

「お前は」

抵抗するでも、身を委ねるでもなく、ファリスが、
身構えるように肩をすくめて、不意にかけられた声は、
低くてささやくように小さい。

覗き込んだファリスの顔が、意外に弱々しくて、
心配になった気持ちと裏腹に、体が熱くなる。

「何でおれと?」

動きを止めた俺に、どこかほっとしたように、
ファリスは余裕を取り戻したような表情で俺を見上げた。

「好奇心、かな」

言った自分の言葉に、自分の胸がすこし痛んだ。
さほど意外な言葉を聞いた風ではない顔で、
ファリスは黙って俺を見上げた。

やけにおちついた空気を、ただ雨音だけが震わせる。

そんな雰囲気を壊すように、いささか乱暴に行為を再開させると、
やっとファリスの顔が驚いた様子をみせた。

「・・・嘘」
「は? なにが?」

かすれて戸惑いがちな、ファリスの声が、頭の奥に、甘く響く。


「嘘、だよ」


二度目の俺の言葉に、納得した様子をみせないまま、
俺の動きにファリスの綺麗な顔は、熱っぽく歪んでいく。

そうだ、このまま、このまんま、本能に任せて忘れてしまえばいい。
自分に、まるで客観的に言い聞かせた、

好奇心だと言い切るには、あまりに柔らかくて苦しい、この感情なんて、


愛おしさなんて、お前にとっては邪魔でしかないなら。



心が無いなら、欲しくない。

言えない俺を、弱いと罵倒したいなら、好きにすればいい。



エロを書こうとしたんですが、なんか恥かしくて、
甘いのはずかしいと思ってたら甘くなさすぎて、
どうかと思うものが出来てしまいました。

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