ありきたりクリスマス 2009.12.20



大好きなチキンや甘いケーキや、わくわくするプレゼントが、
きらきらした雰囲気といっしょに詰まった、楽しくて不思議な日。

無条件に訪れる賑やかさの意味なんて、どうでもよくって、
ただそれを楽しむのに、いつも夢中だった。
今だって、その気持ちは変わらないけれど。

あなたと二人で居るこの日は、いつもよりも静かで暖かい気がした。


すれ違った同い年くらいの男女を、斜めうしろからちらりと見る。
手を繋いで楽しげに話す二人は、控えめな笑い声をたてながら、
繁華街の方向に遠ざかった。

手袋をつけていない敦盛さんの素手が、相変わらず、冷たい空気に寒々しく映る。

「どうかしたのか?」

不思議そうに問いかけながら、私の視線の先を探す敦盛さんに答えず、
自分の手袋を引っ張り取った私に、彼が益々不思議そうな顔をした。

そっと触れた敦盛さんの手は、想像通り冷たかったけれど。
溶かすようにぎゅっと、握り締めた。

「…これでは、あなたの手が冷えてしまうだろう」

りんとした敦盛さんの声が、すこし居心地が悪そうに揺れる。
気恥ずかしそうに逸らされた目線をおいかけて、

「いいえ」

覗き込んだその顔に笑ったら、困ったように見つめ返される。

「ちっとも」

小さくため息をついて、諦めたように敦盛さんが微笑む、
思いついたようにつながれた手に目をやると、
私の手を、自分のコートのポケットにしまった。

狭いポケットの中、大切そうに柔らかく握られた手に、
鼓動が少し高くなる。

「こうすれば、少しは暖かくなるだろう」

つい少し俯いた私に気づきもせずに、
安堵したように穏やかに敦盛さんが言った。

「はいっ」

気まずさをふりきるように元気に言って顔を上げる、
熱の灯った頬が冷たい空気で鎮まるきがした。

「ここ、真っ直ぐですよね?」
「ああ」
「今年もやってるかな」
「…もし、飾りが無ければ、無駄足をさせてしまうな」

申し訳なさそうな目線に、首をぶんぶん横にふる。

「無くてもいいんです、私は…」

私は。こうやって隣に、あなたが居れば。

躊躇して口ごもってしまった私に首をかしげる、
住宅街の街灯にほのかに照らされた敦盛さんの顔は、
去年にひっそり見つめた時よりもゆるやかで。

ずっとずっと、近くって。

「今年も、敦盛さんと居られるだけで十分」

白い息と一緒にはきだした言葉を自分自身、持て余して、
つい誤魔化すように笑う。

「なんーて、ありきたりな台詞ですけど」

ふざけるように言った私に、敦盛さんは、真面目なままの顔。
沈黙に積みあがっていく恥かしさが限界になる直前に、ふわりと彼が笑った。

「ありがとう」
「ありがとう?」

ぎゅっと、少し強くなった私の手を握るちから。
それが切なくて、でも嬉しくて、私は、
ただ穏やかに微笑む敦盛さんを見つめた。

「ありきたりなどでは無い、私には、とても」

言葉を探して黙り込んだ、敦盛さんの真剣な顔。
静かに、そっと見守るわたしに、少し困ったように笑って。

「ありきたりなどでは無いんだ」

ぎこちない言葉に思わず微笑んで、でも、
言葉にならなかったその気持ちは、じんわりと私にも伝わった。

「えっと、まだ真っ直ぐでしたっけ」
「いや、そこを確か右に曲がったところに」

さしかかった曲がり角に、二人、顔を見合わせた。

「飾り、やってるといいですね」
「ああ、…そうだな」

わくわくする自分の胸をあたためて、
ゆっくり歩みをすすめて、曲がり角の向こうに向かう。


新しく現れた道は、あきらかに今までとは違う明るさに照らされていた。

「敦盛さん、光ってるよ!」

まだ少し先にある、一つの住宅から、ちかちかと放たれる光は、
去年に見た光景と同じだった。

思わず私が走りだしたせいで、ポケットからすり抜けた手が、ひやりと冷たい。
構わず振り返って敦盛さんの手を引く。
引っ張られながらうかべた、敦盛さんの驚きとうれしさが入り混じった笑顔。
その明るさが新鮮で、つい足が止まった。

「すまない、いこう」

立ち止まった理由を、自分の遅れだと思ったのか、
敦盛さんが私の隣にあわてて駆け寄った。
今度は私のほうが、敦盛さんの歩みに遅れそうになる。

我に帰って、少し早足で彼においついた。


目の前の光たちを、どこか遠慮がちに、こっそり見るような気持ちで眺めた。
点滅する光と、敦盛さんの穏やかな横顔が、同じリズムで浮かび上がる。

「…去年と、少し違うな」

楽しげに細めた敦盛さんの目が、子供のように無防備。

「よく覚えてるんですね」
「ああ、とて印象的だった」
「そうですよね、こんな光、こっちじゃないと見れないし」

何気なくかけた私の言葉に頷いて、敦盛さんの視線がふと下におちる。


「あなたと見たからかもしれない」

それだけ言って、口を結んで困った目をした彼の横顔を、
ぽかんとしばらく見つめた。


「あの、私も、敦盛さんの顔ならしっかり覚えてます!」

嬉しさと恥かしさと一緒に、霞んでいた去年の光のかたちの記憶に、
罪悪感を感じて、まるで張り合うように主張した。

「かお?」
「すごく、優しい顔してました」

心底からの意外さを顔に浮かべる敦盛さんが、おかしくて、
自然と笑いがこみあげた。

「今年は、優しくて嬉しそうで、あったかい顔してます」
「あなたは一体、去年から光を見ずに何を見て…」

いいかけた言葉を飲み込んだ敦盛さんの顔に、とても解りやすく、
しまった、という色がうかぶ。

「す、すまない」
「いいえ!謝ることじゃ」

首をぶんぶん横にふりながら、俯いた彼から思わず目をそらす。
のぼった熱と、外の冷たい空気、ふたつにさらされて、
頬が熱いのかつめたいのか解らない。

黙っていたら、気を悪くした、なんて、誤解されてしまいそうで。

敦盛さんの手を、ぎゅっと強く握って。
思い浮かべたのは、今日だけ使える、すべてをあったかくする言葉。


「メリークリスマス」

私の想いが、まっすぐつたわりますように。


顔を上げた敦盛さんは、はにかむような暖かい笑顔で、
同じ言葉をぎこちなく呟いた。





メリィクリスマース。はいはいクリスマース(何だよ)

昔、手つないで、それを相手がじぶんのコートのポケット入れたときに、
なんか手に当たったから何気なく「何コレ」って引っ張りだしたら、
知らない女の子と元彼が二人でうつったプリクラだったよ!(超実話)
あの日のグチャグチャなやりとりを思い出しながら書きました(台無し)



 
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