喧嘩




「わたしのことなんて、ほんとは」

午後四時前のファミレスの、落ち着いたざわめき。

時折聞こえる、食器が触れ合う甲高い音が、どうだっていいのに、
やけに気になった。これ以上進んではいけない、
次の言葉には危機感を感じる。

「大して好きじゃないんでしょう」

出た後の方が断然、危機感は大きく膨らんだ。
私達の周りの空気だけがひやりと引き締まっているような、
心地の悪い疎外感。

「・・どうして、そんな考えを起こすんだ」

驚いて、私を見つめていた敦盛さんが、言って、視線を強めた。
怒って、いるんだろうか。

「わたしの事突き放すのが面倒だから、嫌々一緒に居るんでしょ」
「神子! 何を馬鹿な事を・・!」

強くて鋭い、聞きなれない敦盛さんの声に驚くと、敦盛さんも、
他人事のように自分の声にびっくりした顔をしていた。

「大声を出して、すまない」

怒鳴らせたのはわたし。 なのに、すまなさそうにうつむく姿が、
とても辛かった。謝らなきゃ、そう思ったら


「だが、今のはあなたが悪いと思う」

敦盛さんの毅然とした態度は、たちまち、わたしの意地っ張りを煽った。

「そんなに怒るって事は、図星だったんじゃないですか?!」
「ず、ぼし・・? よくわからないが、恐らく違う、と思う」
「解らなくていいです!」

心底嫌になる。解っているのに、敦盛さんがそんな気持ちではない事くらい。


「もう、わたしのいう事なんて、まともに聞かないで」

わざと乱して、さらに確信を得ようとする。
安心感を貪るために、敦盛さんを傷つける。
自分が心底嫌だ。


「どうしたら、信じてもらえるだろうか」

目の前のグラスの水滴ばかりを見つめていた私を、
そうっとなぜるような、緩やかな口調で。
ふと、敦盛さんが尋ねる。

「信じる、って・・」
「だから、私が、神子をとても、その」

一瞬、口ごもって、敦盛さんは私に視線を合わせた。
気まずさに耐えるように唇を少し結んで、それでも真っ直ぐに。


「好きだという事を」

言った敦盛さんの顔が、少し赤い。


ただ、それだけの言葉で、こんなにも小さな事で、
いがいがしていた気持ちがするんと解けて。
心の見通しが良くなった。
我ながらついて行けない。あまりに単純すぎる自分が馬鹿みたいで、
どう返事をしていいのか、わからなくなる。


「キスして下さい、ここで」
「なにを言っ・・! ここでは、いくら何でも無理だ」
「冗談です」

顔を引きつらせて焦る様子がかわいくておかしくて、
思わず笑った私に、敦盛さんは、まだ赤いままの顔をしかめた。

「・・神子、私は真面目に聞いているんだ」
「いいんです、解ってます」

ほぐれた気持ちは、ただ素直に、敦盛さんと向かい合う。

「本当は、解ってるんです」

戸惑うような表情を浮かべた敦盛さんを正面から見つめた。

「ごめんなさい」

ただ真っ直ぐなこの人に、投げてしまったひねくれた言葉を、
心から反省して。


「いや、解ってくれているならそれで私は・・」

ふと気まずさを思い出したように、ぎこちない敦盛さんに、
私もちょっといびつになりながらも、彼に微笑んだ。

敦盛さんが、目を細めて、ふんわりと微笑み返した。
優しいカーブを描いた唇が、なんだか綺麗。

そろそろ行こう、と切り出した敦盛さんにうなずいて、
残っていたアイスティを一口飲んで、鞄を持つ。

二人っきりになったら、キスしてくれますか?

言ったら、敦盛さんは何て言うだろう。




拍手のお礼文でした。ファミレスでチューさせるつもりが、
そんな事はできないと私の脳内敦盛が駄々をこねるので、
こんな中途な事に・・敦盛め(この人病気)

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