間違い20090211



平家の陣の、慣れぬ匂いに満ちた船の上、吸い込んだ息がやけに冷たく肺に染みた。


あきらかに自分の周りの空気は、ひどく硬く、拒絶的だ。
当然のこと。つい先刻まで敵の陣地に居た者を、難なく受け入れる筈もない。
けれど、そんな空気にひるむほど、僕の心は柔らかくはなかった。

たとえ、周りのものが、一人残らず自分に殺意を向けていたとしても、
僕の心は少しだって動きはしない。


全てのことは、計画の通りだった。今後の事がうまく運ぶよう、
ただそれだけを今は集中して考えねばならない。
後ろを見る必要などない、すべては計画通りで。

なにひとつ、狂いはない。


すべきことを静かにひとつひとつ終えていくたび、
遠ざかりたいのか、早く行いたいのか、わからない、
唯一かすかに心を揺らす用事に近づいていく。

結局出来る限り後回しにしてしまった、あの少女と話す事。


今更。

責められたとしても泣かれたとしても、憎まれたと、しても、
何を思う心ではないはずなのに。

久しぶりに見た美しい長い髪。しゃんとした後姿に、
かすかに、思いがぶれた気がした。



ひとつ、たったひとつ、計画通りに行かなかったことがある。



「弁慶さん」

振り向いたあなたは、責めも、泣きも、憎みもしていない、
僕の内面を通り越してもっと遠くまでをも見ているような強い視線で、

ただ、きれいだった。


ああ、いっそ、醜ければ良かった。

うんざりする程物分りの悪い目で責めて泣いて、僕を憎めばいいのに。

そうすれば、計画を、僕の決意を、じりじりと妨害する想いから放たれるのに、
たった、ひとつ、僕が間違えてしまった、このあなたへの想いから。


心は揺れても、それを押し隠せないほど、僕の心は柔らかくはない。
したたかなほど、ぴくりとも揺るがない平気な顔で、僕は、


愛しいあなたに冷酷に笑った。




弁慶ルート覚えてないので間違ってたらごめん(確認しろよ)
お誕生日おめでとう弁慶さんとかいいつつ、
祝う気ナッシンな内容の文。弁慶さん好きです。


 
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