呆れついでに  2008.0808



あまりに無防備で考えの浅い行動は、何度注意をしても、
彼女からきえてなくなる事は無いのだろうか。

目の前にしている光景を、頭をかかえたい気分でみつめた。

村の一角の、椅子のように見えるけれど。
もしかしたら、自然とそんな形になった自然そのままの岩かもしれない、
そんな、あまりに外と隔たりの無い、つつぬけな場所で、
中つ国の姫であり、一軍の将である人物は、俺が居ても気が付かぬ様子で、

すやすやと眠っていた。

起こすべきだが、なんだか、その気も失せるくらいに呆れた。
注意をした所で、はたして、この少女の行動が今後変わるのだろうか。
でも、諦めて、捨て置くわけにはいかない。この人物はただの娘でも、
自由に軍を退ける一兵でもない。

どんなにあどけない普通の少女でも、彼女には、すべき事がある。

「二ノ姫」

まずは控えめに呼びかける。にわかに声に反応して、
彼女は手に持っていた弓を抱きしめなおして、ふたたび、
動かなくなった。

寝息をたてる彼女の腕の中の、弓を見つめた。
かつての俺の忠告を、眠りながら守っているつもりか。

「武器を手放さずに居ても、眠れば何の意味もないだろう」

半ば独り言、半ば呼びかけ。
言った俺の言葉はやはりニノ姫に届かない。
心の底から彼女に呆れつつ、眺めたその寝顔には、疲れの色がにじんでいた。

寝かしてやりたいような気も沸いた。
こんな情は先々仇になる事は明白だけれど。
呆れついでだ。彼女が起きてから、言い聞かせればいい。
自分が見張りになるしかない。傍に腰掛けて、武器の位置を整える。

辺りの様子を伺い、耳を澄ます。穏やかな寝息が隣から聞こえた。

なんとなく見上げた空は晴れていて、その寝息によく似合っていた。
優しい空気に、ふと、自分が馴染んでいないような気がして、
我に返って、軽く頭を振る。 この少女の調子に、自分まで呑まれてどうする。

武器を握り締めた彼女の手は、日常化した擦り傷で、
所々赤い痣を残している。 

この短期間で彼女が十分努力している事は、わかる。
でも、そんな主観的な評価で納得していては、戦争を生き抜ける筈がない。
こんな少女を戦に参加させるなど、ましてや将に立てるなど、
酷で無理のある話だ。

それでも、どんなに浅はかだと否定しても、
こんなにも無防備で甘い考えだというのに、少女の元には人が集まった。
色々と考えを巡らせる自分がばからしくなる位に。

人々を惹きつける光を持った不思議な少女。
一体、この少女の中の何に、人々は力を貸したいと思うのか。
愚かでも、守りたいと思う、この少女は・・

脈絡ない考えの途中で、ふと気付いた事に、俺は少し驚いた。

ずっと客観的に、少女に集まる人々を不思議に思い見ていた、
しかし、同じだった。自分自身も、何時の間にか、

惹き付けられた人々のひとりになっていたのか。


村のど真ん中で居眠りをする将を改めて見つめて、
心の底から呆れる、自分自身に。


前触れなく、驚いたような顔で二の姫が目を覚ました、夢でも見たのか。
慌てて体勢を整えるが、その姿勢はふらつきを残して頼りない。

ほどなく俺と目が合って、更に驚いた顔をした彼女に、
告げようと思っていた忠告の数々をする気が、思わず失せる。

「ご、ごめんなさい! 寝るつもりは無かったんですけど」

まだかすれた声で言う二の姫の声を聞きつつ、立ち上がる。

「自分の非を理解しているならいい、今後は・・・」

こちらを見る二ノ姫の表情が驚いているように見えて、言葉を中断した。

「何だ」
「忍人さん、優しい顔してるから・・」

彼女の言葉に、返したい事がありすぎて言葉が出ない。

「珍しいなって思って」

そんな俺を構いもせずに二ノ姫は顔いっぱいに、笑った。
怪訝な顔を返すことしか出来ない。

「私、変な事いいました?」
「変な事だろう」
「あ! 珍しいって、いつも優しくないって意味じゃ」
「変なのはそこじゃない、とりあえず」

まだ何か言いたげにしている二の姫に、さっきの言葉の続きを言い渡す。

「今後は、常に警戒を解くな。安全な場所などどこにもない」
「・・はい」

俯いた二ノ姫のしおれたような様子に、おかしな情がわいた。
今日は何故か彼女に流されがちな自分に、危機感を感じながらも。

「もし、居眠りをしそうな時は一人で居るな、俺を・・」
言った言葉の違和感に気付いて、取り消すようにすぐに代わる言葉を続けた。

「誰でもいい。誰か、護衛を呼べ」

これ以上、ここに居たら、またおかしな事をしてしまいそうだった。
言い終わるや否や二ノ姫に背を向けてこの場を離れる。
相変わらずの晴れた空に居座る太陽が目に入ってまぶしい。

「忍人さん!」

呼ばれた声に仕方なく振り向く。二ノ姫の笑顔が、木漏れ日の光を、
所々にうけてひかっていた。

「忍人さんを呼んでもいいですか?」

そんな、くだらない事を言うために呼び止めたのだろうか。
他意のなさそうな笑顔をながめていたら、緊張感が薄れる。

「君にはほとほと呆れる・・また、居眠りをするつもりか」
「え!? だって、忍人さんが護衛を呼べって・・」

彼女の驚き顔に、益々気が抜けた。 

「俺を呼んだら、居眠りなどさせはしない、それでもいいなら呼んでくれ」

二ノ姫のきょとんとした顔が、ふと、笑顔になる。

「お願いします」

思わずつられて笑った自分に違和感を感じて、
誤魔化すようにため息をついた。笑っている場合ではないのに。

良い傾向ではなかった。後先を考えない優しさなど、
結果的に皆を苦しめるだけだ。でも、


今日は、呆れついでだ。




物語終盤まで、「お前らネオロマする気あるのか」って位、
ラブモード無しな二人が好きでした。
でもそんな状態を文にしたら何が書きたかったか解らぬ謎文に・・。


 
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