大好き


泰明さんとの間にただよう、しんとした空気は嫌いではない。 でも、今私達の間に漂っている、この静寂は・・。 重く、重く、胸にのしかかって苦しい。 どうして何も言わないんだろう。 飲みかけの紅茶は湯気をなくしてぴくりとも動かず、 マグカップの中で息をひそめる。 じっと、ただそれを私は見つめていた。動けない。 「本気で、そのような事を思っているのか?」 泰明さんの声はいつもよりもよく通る。 「本気だって言ったら、どうするんですか」 「質問を質問で返すな」 思わず顔を上げてしまう、見ないようにしていた泰明さんの顔は、 卑怯なくらい無表情で、何を考えているか解らない。 「本気か、本気でないのか、答えろ」 淡々とした声が、冷静さを失った自分を浮き彫りにするようで、 少しずつ怒りよりも情けなさがこみあげてきた。 かみ締めた唇の奥に涙の味。こんなところで泣くなんて、 ずるい気がして嫌だった。せめてもの抵抗に、泰明さんから顔を逸らす。 「・・泣くな」 うって変わって弱々しく困ったような泰明さんの声は、 無機質なものよりもずっと、私の心を苦しくさせた。 暖かい感触が私の頬を撫ぜた、目を拭うように動く泰明さんの指。 よかった、またこの温度に触れられて。 「・・そ、です」 顔を上げたら、涙が頬を滑り落ちる。 よく聞き取れなかったのか、泰明さんの目が疑問を含んで少し大きく開く。 「キライだなんて、うそです」 そのまんま、目を見開いたまま、私を見つめて、 泰明さんは小さなため息と一緒に表情をふうっと緩めてすぐ、 私を引っ張り寄せるみたいに抱きしめた。 「驚かすな」 すぐ近くで響いた、緩んだ声が暖かくて、泰明さんのシャツに、 ぎゅうっとしがみつく。 もう、二度と離さない。 喧嘩をして、仲直りをする度に思うのに、 どうして何度も、突き放してしまうんだろう。 「ごめんなさい」 呟いたら、泰明さんは腕をゆるめて、私の顔を確認するように見据えた。 「二度と言うな」 怒っているというには、ちょっと弱々しい、 そんな不機嫌そうな顔でそう言った泰明さんに、何度もうなずいて、 こんどこそ、もう二度と離れない想いをこめて、 もう一度その胸にしがみついた。 拍手のお礼文でした。現代にした意味が無い。
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