隠された本心 20090429



人がにぎわう楽しげな空気には、あまり馴染めなさそうに見えるけれど、
勧められた酒を、しゃんとした姿勢で、にわかに微笑みながら受け取り、
皆と話す敦盛さんは、思ったよりも穏やかな様子に見えた。

なにかと話題にされてしまう私と距離を置くように、大広間の隅に座った敦盛さんに、
つい無意識に時折目線を向けてしまい、目ざといヒノエ君にひやかされてしまったけれど。

そんな私の観察の隙をぬって、気がつけは敦盛さんは、
宴の広間のどこにも見当たらなかった。


熱気と楽しげなざわつきから抜け出して、一つ、息をつく。
こっそり抜け出したつもりだけれど、敦盛さん程、うまく出来ただろうか。

暗がりに一瞬、目がくらむ。闇に慣れてうっすら辺りの様子が浮かぶと、
戸の隙間から漏れる宴の灯りを背に受ける敦盛さんを、難なく見つけた。

柱に寄りかかって座る彼に近づいて、何も言わずに、そっと隣に座る。
顔を上げた敦盛さんは、どこかいつもより無防備に見えた。

「飲まされちゃいましたね」

私の言葉に、にわかに笑って、敦盛さんは目を閉じて息をついた。

「皆、私を気遣ってくれているのだろう」

声色は、とても柔らかい。

「気持ち悪くないですか?」
「ああ、大丈夫だ」

ふと、敦盛さんの少し赤い顔に、苦笑いが浮かんだ。

「気を使わせてしまったな」

微笑んで、首を横にふる。
敦盛さんの笑顔から、弱々しさが抜けて、穏やかになった。

「敦盛さんは、酔ってもあまり変わりませんね」
「そう…か?そうだな、でも」

探るような口調を、止めて、こめかみに手を添えた。真っ直ぐな髪が揺れる。

「立つと頭が、くらくらする」

真面目な顔で言った、敦盛さんのその言葉は、いつもよりも幼い印象で、

なんだか可愛らしい。
なんて、口にしたら嫌がられるかもしれないけれど。

「少し横になった方がいいかも」
「大丈夫だ。神子、私の事はもう、気にかけなくても…」
「無理しちゃだめです、もっと人に甘えて下さい」

黙って、少し俯いた敦盛さんに、思わず笑ってしまう。
ちょっと困ったような様子が、やっぱりやけに可愛くみえた。

立ち上がった、悪戯心。
私はそっと、敦盛さんの顔を覗き込む。

「もし良かったら、膝枕しましょうか?」

目を、おおきくして、動きを止めた敦盛さんに、くすくすと笑った。

「頼んでも、いいだろうか」

冗談半分の私の申し出に、相変わらず真面目な顔で、
敦盛さんが、いつもの静かな口調で言った。

しばらくの静寂。宴の音が遠くに感じるのに妙にはっきりと聞こえた。
私が言葉を返せずに居る間に、敦盛さんの顔は、ぐらりと、下にずれた。

膝に感じた重みと、漂った良い匂いと、
スカートから出た足に感じた敦盛さんの髪の感触。

心拍数が、ぐんと上がったのが、解った。

大変なものを預かってしまったかのように、私は、
身を硬くしてただ、無防備に身をゆだねる敦盛さんを、見下ろした。


「・・本当は」

敦盛さんの声が、膝を通して私の体に響く。

「え・・?」

自分の声が裏返る寸前のように、おかしな高さになった。
ようやく正常に動き出した思考回路を、私は持て余し気味。
酔ってる?やっぱり敦盛さんはちょっと、

普通じゃない。

「心のどこかで、あなたが来てくれたらいいのにと、私は」

少し夢の中に踏み込んだような、ふわふわとした声、だったけれど、
敦盛さんの言葉に、心臓がさらに激しく動いた。


「言われなくとも、貴方に甘えていた」


顔に熱が集まる。騒がしい心臓は苦しいくらいなのに、
でも、どこかやわらかくて、嫌な感覚ではなかった。

動かせずにいた腕を、そっと上げて、そうっと、膝の上の髪をなぜた。


初めて触ったさらさらと真っ直ぐなその髪は、見かけよりも柔らかかった。





拍手のお礼文でした。元来は甘えん坊弟気質が私の敦盛脳内設定です(勝手に)

 
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