やさしい光 120081226



なんて、きらきらとした世界なのだろう。

神子の世界に来たばかりの頃は、ただその光の多さに驚いた。
明るい昼間でさえ、街に出れば、ちかちかと点滅する光が溢れて、
正直、目がそれについていけずに頭が痛む思いがした。

夜になっても、神子の世界は闇につつまれる事はない。
夜に出歩くのに、灯も何も必要としないなど、
想像もつかないことだった。

ようやくその明るさにも慣れてきたつもりでいた、けれど、
ここ最近のきらびやかさに、私はまたついていけずに、
目を丸くするより他無かった。


「クリスマスシーズンはこんなもんだ」

日が落ち始めた、薄暗い筈の商店街は、目が痛くなる程明るい。
ライトに頬を照らされながら、その光を気にもせずに天真殿が歩く。

「祭りごとの一種だからな、ここぞとばかりに派手な事するのが・・おい」
「は、はい」

目だけでなく、頭まで痛み出した気がする。手で目を覆いながら、
何とか天真殿に遅れぬよう歩く私に、天真殿が足を止めて振り向いた。

「お前、しっかりしろよ、大丈夫か?」
「はい。大丈夫です、少し光にあてられただけで・・」

何とか笑ったつもりが、眉をしかめた天真殿からすると、ひきつっていたのだろうか。

「ま、仕方ねーか、お前坊主だった訳だし」
「は・・? 僧である事が何か」
「クリスマスが肌に合わなくても仕方ねーか」

私の質問には答えず、一人納得して天真殿が笑う。

「ほら、そこの脇道入るぞ、暗い方がいいんだろ」
「す、すみません」

少し細い道に入ると、嘘の様に光がなくなった。
ほっとしてためいきをつく私に、天真殿が呆れた顔をする。

「言えよ、暗い道通りたいって」
「はい・・しかし、苦手とする事から逃げてばかりではいけないと」
「お前、男らしいんだか自虐的なんだかわかんねーな」

天真殿に何と返せばいいのかわからずに、うつむく。

「そんな調子じゃ、クリスマス本番どうすんだよ」
「部屋で過ごそうかと思っております」

始まってもいないのに、街中がこんな様子では、本番は一体どのような事になるのか、
考えただけでも頭痛が蘇りそうだ。外出を控える事を提案してくれたのは神子、けれど、
意外そうな顔をした天真殿の様子に、不安になる。

「それではやはり、失礼に当たるのでしょうか」
「失礼にはあたらねーけど」

ふと、会話がとぎれた。不自然に止まった天真殿の言葉に首をかしげる。
分かれ道にさしかかって、二人、足を止めた。

「お前、あかねにまだ、何もしてねーだろ」

一瞬意味が解らなかった。少し言いにくそうな天真殿の様子に、
ふとその言葉に思い当たって、心臓が騒いで息がつまった。

「な・・!何もとは何を、いきなり」
「うわ、狼狽すんなよ、やっぱ言うんじゃなかった」
「狼狽などしておりません!それに全くなにもしていないというわけでは」
「超狼狽してんだろ! お前らの進み具合なんざ別に聞いてねぇ!」

気まずそうに頭をかく天真殿が、もう一言、ぶっきらぼうに言う。

「じゃあ、期待されちまうかもな」

熱くて騒がしいまんま、心臓が凍ったように固まった。

「は!? な、なにを」
「後は自分で考えろ」

じゃーな、と、背中で手を振って、天真殿が曲がり角に消えた。


もう誰も居ない曲がり角を見つめていた私は、我に帰って、
慌てて帰路の方向に向きを変える。

考え事をしながら夜道を歩くのは危険だった。
突然目の前に現れた電柱に頭をぶつける寸前で私は急停止をして、
心臓に手をやり息を吐いた。

「まさか」

小さな一人ごとは誰にもうけとめられずに、闇に消える。
まさか神子が、期待など。するはずが・・

気にしないことにしよう。そう決めて、顔をあげる。

何を確認できるわけではないけれど、神子と話をすれば、
ぎこちなさが消えるような気がして、、
未だに使うことに違和感の残る携帯電話を取り出す。

呼び出した神子の番号が、いつもよりも綺麗に画面で光ってみえた。


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